私たちが日常で目にする「ピクトグラム」は、駅や空港の案内表示、非常口マーク、オリンピックの競技アイコンなど、言葉を超えて情報を伝える役割を果たしています。シンプルで直感的に理解できるデザインは、国籍や言語を問わず多くの人に利用されてきました。しかし、ピクトグラムの背景には長い歴史と理論があり、その中でも「アイソタイプ(Isotype)」との関係は見逃せません。本記事では、ピクトグラムの成り立ちからアイソタイプとの違いまでを整理します。
ピクトグラムの起源
ピクトグラムの歴史を遡ると、人類最古のコミュニケーション手段の一つである洞窟壁画や古代の象形文字にたどり着きます。例えば、エジプトのヒエログリフやシュメールの楔形文字は、モノや概念を絵で表現する点で、現代のピクトグラムの源流といえます。
近代的な意味での「ピクトグラム」は20世紀に入ってから急速に発展しました。特に国際的な移動が増加し、言語が異なる人々に共通の情報を提供する必要性が高まったことで、その重要性が認識されるようになったのです。
モダンデザインとピクトグラム
1920年代から30年代にかけて、ヨーロッパではバウハウスやスイス・デザインの潮流の中で「機能性」と「普遍性」を重視したデザインが登場しました。この流れが、後のピクトグラム発展に大きな影響を与えます。
特に注目すべきは、1930年代にオーストリアの社会学者オットー・ノイラートが開発した「アイソタイプ(Isotype)」です。彼は社会統計や経済データをわかりやすく視覚化するために、統一されたアイコンを考案しました。これが「情報を絵で伝える」という考え方を理論的に体系化した初の試みでした。
アイソタイプ(Isotype)とは?
「Isotype」は International System of Typographic Picture Education の略称で、直訳すれば「国際的な絵による教育体系」となります。ノイラートとその仲間たちは、複雑なデータをわかりやすく一般市民に伝えるため、統一されたシンボルを用いた図解システムを構築しました。
アイソタイプの特徴は以下の通りです。
- 数量の表現:一つのアイコンを複数並べることで数を表す。例:1000人を10個の人物アイコンで示す。
- 統一性:すべてのアイコンが同じデザインルールに基づき、シンプルで分かりやすい。
- 教育的目的:政策や社会問題をわかりやすく伝えるために使用。
つまり、アイソタイプは「データ可視化」を目的とした体系的なシステムであり、今日のインフォグラフィックスの原点ともいえる存在です。
ピクトグラムとアイソタイプの違い
ピクトグラムとアイソタイプは混同されやすいですが、その目的と使い方には明確な違いがあります。
- 目的の違い
- ピクトグラム:情報伝達をシンプルに行う(例:トイレマーク、非常口表示)。
- アイソタイプ:社会的・統計的データを視覚的に教育する。
- 表現方法の違い
- ピクトグラム:一つのアイコンで意味を完結させる。
- アイソタイプ:アイコンを繰り返し配置することで数量や関係性を示す。
- 使用環境の違い
- ピクトグラム:日常生活、公共空間、国際イベント。
- アイソタイプ:出版物、教育資料、政策説明。
国際的なピクトグラムの普及
1964年の東京オリンピックでは、初めて競技を表す統一デザインのピクトグラムが採用されました。これは「言語の壁を超え、誰もが直感的に理解できる情報デザイン」として世界的に高く評価され、その後のオリンピックでも伝統として引き継がれています。
また、国際標準化機構(ISO)は「非常口」や「禁煙」などのピクトグラムを国際規格として定め、グローバルに使用されています。これにより、世界中の人々が同じルールで安全や利便性を共有できるようになりました。
現代における意義
今日、ピクトグラムは単なる案内表示を超えて、ブランディングやデジタルUIにも活用されています。アプリのアイコンやウェブサイトのナビゲーションは、まさにピクトグラム的発想の延長です。
一方で、アイソタイプの思想は、データ可視化やインフォグラフィックス、さらにはビッグデータのダッシュボードにも受け継がれています。シンプルで直感的に理解できるビジュアル表現は、情報過多の現代社会においてますます重要性を増しています。
まとめ
- ピクトグラムは「言語を超えて情報を伝える」シンボル。
- アイソタイプは「データを視覚的に教育する」体系的な方法論。
- 両者はルーツを共有しつつも、目的や利用シーンに違いがある。
- 現代においても、その理念はUI/UXやデータビジュアライゼーションに継承されている。
私たちが何気なく目にするピクトグラムには、歴史と思想が込められています。デザインの背後にある文脈を知ることで、日常にあふれる「記号」を新しい視点から捉え直すことができるでしょう。
(広報担当)