広告と年賀状の関わり

コラム

― 変わりゆく伝達手段の中で ―

年の瀬が近づくと、日本では今でも多くの人が年賀状の準備を始める。かつては家庭に届く年賀状の束が、その家の人間関係の厚みを映し出すものであり、同時に、企業にとっては「新年最初の広告媒体」でもあった。
しかし、メールやSNSのメッセージ、動画など、情報発信がデジタル化していく現代において、年賀状という紙の文化はどう位置づけられるのだろうか。


■ 年賀状は“広告の原点”だった

広告の基本は「相手を想って伝えること」にある。年賀状もまさに同じ構造を持っている。
たとえば企業が送る年賀状には、単なる挨拶文だけでなく、新商品の紹介や企業理念、ロゴの刷新など、ブランディングの要素が込められてきた。手書きの一言や、デザインに込められた思いが、相手に「この会社は丁寧だ」「信頼できる」といった印象を残す。それは紙媒体ならではの“ぬくもり”の広告効果である。

郵便局が配達する年賀状の数は減少しているが、デザイン性の高い企業年賀状や、顧客との関係を重視したダイレクトメール型の年賀状は、今でも一定の存在感を持つ。とくにBtoB業界では、年始の挨拶として紙の年賀状が信頼構築の一手とされることも多い。
つまり、年賀状は「広告の最も原始的なかたち」であり、同時に「信頼を可視化するツール」でもあるのだ。


■ デジタル化の波と“効率化”という誘惑

一方で、年賀状を取り巻く環境は大きく変わった。SNSの新年投稿、LINEのあけおめスタンプ、企業からのメールニュースレター――これらは紙の年賀状よりも早く、安く、多くの人に届く。広告の世界でも、デジタル広告の即時性と分析可能性が重視される時代になった。
開封率、クリック率、エンゲージメント――数字で効果を可視化できる点は、デジタルならではの魅力だ。

企業にとっても、印刷や郵送にかかるコストを削減できるのは大きい。SDGsやペーパーレス化の流れも後押ししている。
しかし、この“効率化”が、時として「心の通わないコミュニケーション」を生み出しているのも事実だ。AIで自動生成されたメッセージや、テンプレート化されたデザインは、相手に「大量配信のひとつ」としてしか受け取られないこともある。
そこに「あなたのために時間を使った」という痕跡がないのだ。


■ 紙の年賀状が持つ“触れる広告力”

紙の年賀状には、視覚だけでなく触覚や記憶を刺激する力がある。手に取る感触、印刷の質感、インクの香り――五感に訴える広告は、デジタルでは再現しづらい。
特に近年は、活版印刷や箔押しなど、デザイン性の高い年賀状が再評価されている。小ロット印刷技術の進化により、個人でもオリジナルデザインを手軽に作成できるようになった。

また、広告的観点から見ると、年賀状は「開封率100%」のメディアである。ポストから取り出し、必ず一度は目にする。これほど確実に相手の視界に入る媒体は他にない。
そこに会社名、ロゴ、スローガン、スタッフの笑顔――どれか一つでも印象に残れば、それは成功した広告と言えるだろう。


■ デジタルとアナログの“共存”という新たな形

現代の広告は、「紙かデジタルか」という二者択一ではなく、「どう融合させるか」の時代に入っている。
たとえば、印刷された年賀状にQRコードを添え、そこから動画メッセージや会社紹介ページへ誘導する。
あるいは、SNS投稿と連動した年賀状キャンペーンを実施し、オンラインとオフラインの両方でブランドを印象づける。
このような“ハイブリッド年賀状”は、紙の温かさとデジタルの拡散力を両立させる、新しい広告手法だ。

また、年賀状制作の過程自体をSNSで発信する企業も増えている。
「社員がデザインしました」「この紙は環境に配慮した素材です」――こうした舞台裏を見せることで、顧客は企業の姿勢に共感する。広告は“伝えること”だけでなく、“共感を生むこと”に変化している。


■ 年賀状が教えてくれる「時間のかけ方」

効率や即時性を求める時代において、年賀状は逆説的な価値を持つ。
それは「手間をかけること」そのものが、最も贅沢なメッセージになるからだ。
誰かの顔を思い浮かべながら、一枚のはがきを選び、文字を書く――その時間が、デジタルでは再現できない“広告の原点”を思い出させてくれる。

年賀状の役割は、単なる季節の挨拶にとどまらない。
それは、「人と人をつなぐ広告」であり、「想いをデザインする文化」である。
デジタルが進化しても、心を動かすのは結局、人の手から生まれる“ひとこと”なのだ。


まとめ
広告の世界がどれほどデータ化しても、最終的に人の心に残るのは「温度のある言葉」だ。
年賀状は、その温度を形にした最も古く、そしてこれからも新しい広告のかたち。
紙かデジタルかではなく、どんな想いをどんな方法で伝えるか――その選択が、広告と年賀状の未来を決めていく。

(広報担当)

関連記事