2026年7月21日、政府が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を決定した。ニュースの見出しは「次期マイナンバーカードの導入は2029年度へ」という後ろ向きな話が中心だったが、資料を追っていて目に留まったのは別の一行だった。AIエージェントが政府のシステムにアクセスするための環境——MCPを、2027年度中を目途に整備するという記述だ。
行政手続きを、人ではなくAIが代わりに進める。その入り口の話が、もう計画書に載っている。
まず、次期マイナンバーカードは何が変わるのか
デザインが一新されるほか、券面に載る情報そのものが見直される。主な変更点はこのあたりだ。
- 性別を券面に記載しない(情報はICチップの中に格納される)
- 生年月日を和暦から西暦表記に
- 暗証番号を4種類から2種類に集約
- 電子証明書の有効期間を5年から10年に延長(カード本体の期限に合わせる)
券面から性別が消えるのは、偽造防止やユニバーサルデザインの観点に加えて、「見せなくていい情報は見せない」という設計思想の表れだと感じる。身分証は、提示するたびに関係のない情報まで相手に渡してしまうものだった。そこを削る方向に舵を切ったのは、素直に理にかなっていると思う。
一方で導入時期は後ろ倒しが続いている。当初の2026年度から28年度、そして今回29年度中へ。理由は「より強固な暗号方式への対応の検討」などとされている。急いで穴のあるものを配るより遅らせるほうがマシではあるが、待っている側からすると全体像が見えにくいのも確かだ。
MCPとは何か——AIと外部サービスをつなぐ「共通の作法」
MCP(Model Context Protocol)は、AIが外部のデータやサービスとやり取りするための共通仕様だ。2024年11月にAnthropicが公開したオープン標準で、いまではAI開発の世界で事実上の共通言語になりつつある。
たとえるなら、AIにとってのUSB端子のようなものだ。これまではAIとサービスを1対1でつなぐ個別対応が必要だったが、同じ差込口の形を決めてしまえば、対応したサービスにはどのAIからでも挿さる。
デジタル庁はすでに補助金検索システムでMCPサーバーの実装例を公開しており、今回の計画ではこれを行政サービス全体に広げる方針が示された。実現すれば、利用者に代わってAIエージェントが手続きを進めたり、必要な申請を先回りして提案したりできるようになる。計画書では2030年代半ばに、住民からの相談や申請をAIが代行する社会像まで描かれている。
ところで、マイナンバーカード、使っていますか
制度の話ばかりでは実感がわかないので、身の回りの話を。
運転免許証との一体化(マイナ免許証)は2025年3月から希望者向けに始まった。病院や薬局では、窓口で毎回カードを出して読み取り機にかざす手順がすっかり定着している。そして最近は、カード本体ではなくスマホの認証で済ませる場面が増えてきた。
今年の秋にはAndroid向けに氏名・住所・生年月日・性別の基本4情報の搭載が予定され、マイナポータルアプリとデジタル認証アプリも「マイナアプリ」として統合される見通しだ。カードを持ち歩く機会は、これからさらに減っていくのだろうと思う。
「マイナ保険証のほうが安い」は、もう過去の話
ここは誤解が残りやすいので整理しておきたい。
2024年6月に始まった医療情報取得加算は、当初こそマイナ保険証を使うほうが点数が低く、窓口負担にわずかな差があった。だがその差は2024年12月に解消され、2026年6月の診療報酬改定で加算そのものが廃止されている(医科・歯科は別の加算に統合、薬局は廃止のみ)。
つまり現時点では、マイナ保険証で受付をしても従来の受付でも、患者が窓口で払う額に差はない。「使うと安くなる」という説明を見かけたら、それは古い情報だ。
いま語られるメリットは金額ではなく手続き面——高額療養費の限度額適用認定証を用意しなくてよい、転職しても資格情報が引き継がれる、といった部分にある。細かな取り扱いは医療機関や加入している保険によって異なるため、気になる場合は窓口で確認するのが確実だと思う。
券面から性別が消え、情報はチップの奥へ。手続きはAIエージェントが代行する。便利になる方向であることは間違いない。
ただ、どの情報が、どこで、誰に読み取られているのかは、確実に見えにくくなっていく。券面なら目で確認できたものが、チップとアプリの向こう側に移るからだ。AIが代理で手続きをする世界なら、「誰にどこまでの権限を渡したのか」を利用者自身が把握できる仕組みが不可欠になる。
不安を煽るつもりはないし、便利さを頭から否定するつもりもない。ただ、仕組みが速く動くときほど、決まったことを一つずつ確かめておきたい。政府の方針は、慎重に見守っていきたいですね。
(広報担当)